「トランプは大国による世界秩序を構築しようとしている」

21.03.2025

今日、トランプ氏とその支持者たちが築こうとしている新たな世界秩序の輪郭が、ますます明確になりつつあります。今回の「トランプ2.0」は左派リベラルのグローバリズムと、ネオコン(本質的には同じグローバリスト)の両方と完全に決別する決意を固めており、それらのプロジェクトに妥協することを一切考えていません。彼は過去のしがらみを断ち切りアメリカという、巨大な空母を新たな航路へと向かわせようとしています。

トランプ氏が掲げる国際関係のモデルは、「大国秩序」と定義できます。これは「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というMAGAのイデオロギーの延長線上にあります。そのスローガン自体が示すように焦点は西側全体ではなく、地球規模での自由民主主義の拡大や大西洋主義でもなく、アメリカという国家そのものに置かれています。トランプ氏の考えではアメリカは、グローバリズムやそれに伴う制約、義務、そして外部からの命令から完全に解放されるべきなのです。

トランプ氏にとって現在の国際機関のほとんどは、古い秩序を象徴するものであり、彼は新たな秩序を創り出そうとしています。国連、NATO、WTO、WHOをはじめとする超国家的機関のすべてがその対象です。彼はこうした組織をリベラル派やグローバリストの産物とみなし、自らは一貫して現実主義の立場を取っています。

国際関係論には現実主義(リアリズム)と、リベラリズムという二大潮流があり、両者は多くの点で対立しています。特に重要なのが「主権」の定義をめぐる考え方の違いです。現実主義者は主権を絶対的なものとみなしますが、リベラリストは主権を相対的なものと考え、各国の政府をより高次の国際的権威の下に置こうとします。彼らの目標は最終的には人類の統一と、世界政府の樹立にあります。

一方現実主義者たちは、これを国家の自由と独立に対する侵害とみなし、断固として拒否します。トランプ派がグローバリストを「ディープ・ステート(闇の政府)」と呼ぶのは、まさにこのためです。彼らはディープ・ステートこそがアメリカの政治を、超国家的な目標に従属させようとする勢力であると見ているのです。

グローバリズム政治の原型は、ウッドロー・ウィルソンの「14か条の平和原則」にあると言えます。彼は第一次世界大戦後自由民主主義を、世界規模で推進する責任を担うべき国家として、アメリカの役割を明確にしました。一方トランプ氏は現実主義の立場に基づき、より古い「モンロー主義」に回帰しようとしています。「アメリカはアメリカ人のもの」というこのドクトリンは、ヨーロッパ政治への関与を避け、アメリカ大陸以外の国家の内政に干渉しない、という原則を掲げています。ただしこの原則が適用されるのは、アメリカ大陸における出来事がアメリカの国益に直接影響を及ぼさない場合に限られます。

しかしトランプ主義は、古典的な現実主義とは異なる側面も持っています。それは単に主権の法的地位を維持するだけではなく、国家がその独立を獲得し、確立し、強化し、守る能力を持つことを重視する点にあります。したがってすべての国家の主権が同等に扱われるわけではなく、経済、軍事、人口、領土、天然資源、知的資本、技術力、文化など、十分な資源を備えた国家だけが「真の主権」を持つとされるのです。

アメリカの著名な国際関係学者であり、現実主義の立場を取るスティーブン・クラスナーは、形式的な主権を「虚構」あるいは「偽善」だと断じました。同様の見解を持つジョン・ミアシャイマーも、法的主権が現実的な力を伴わなければ意味をなさないと主張しています。そしてトランプ氏もまた、この考え方を共有しています。彼らの立場では真の主権を持つのは、大国のみでありそれに伴う現実主義の概念も、単なる国家間の関係ではない文明国家同士の競争へと進化しています。トランプ氏が描く世界秩序は、限られた文明国家による関係性を基盤としており、これこそが彼の地政学的戦略の指針となっています。これはグローバリズムの完全な否定であると同時に、大国が独立性と自給自足を確保するために「大空間」の地域統合を進めるという方向性を示しています。

この方針から導き出される結論の一つは、カナダやグリーンランドの併合と、さらにはアメリカにとって、最も有利な形でラテンアメリカとの関係を構築することです。

ここで興味深いのは、「MAGA(Make America Great Again)」というスローガンの持つ曖昧さです。「偉大なアメリカ」とは具体的にどの範囲を指しているのでしょうか?それはアメリカ合衆国だけを指すのか、それともカナダやグリーンランドを含む北米全体なのか、さらには南米をも含むアメリカ大陸全体を指しているのか、その解釈は定かではありません。この曖昧さは意図的なものであり、明確な境界線を引かずに、「大空間」の概念を拡張する余地を持たせています。さらに、「アメリカを偉大にする」というフレーズは、領土拡張の可能性を含意しているとも解釈できます。これは我々が「ロシア世界(Русский мир)」という、概念を用いるのと類似しています。ロシア世界はロシア連邦の国境を超えた広がりを持ち、厳密な領域の定義がないのと同じように、トランプ氏の「偉大なアメリカ」も、地理的な制約を超えた国家文明の概念を示唆しているのです。

しかしトランプ氏は完全に覇権を放棄するつもりはなく、少なくとも地域的な覇権は維持する意向を持っています。ただしその覇権の主体は、これまでのリベラルな国際秩序とは異なります。トランプ氏が目指すのは、絶えず変化するルールと国際的なコスモポリタン・エリートによる権力の簒奪に基づくグローバリズムの覇権ではなく、真の主権を持つ大国同士が競争し合う新たな秩序です。これはジョージ・ソロスが提唱した「開かれた社会」とは対極にある世界観であり、架空の主権ではなく実際に影響力を行使できる国家のみが力を持つ、新たな「大国秩序」なのです。

トランプ氏の新たな世界秩序は、いくつの大国を想定しているのでしょうか。ミアシャイマー教授は、アメリカ、中国、そしてやや遅れをとるもののロシアの三つを挙げています。インドについては懐疑的であり、他の主要国と本格的に競争するにはまだ、十分な成長のポテンシャルを備えていないと考えています。しかし異なる見解も存在し、インドも文明国家として位置付けられるべきだ、とする意見もあります。それでもほとんどの現実主義者の見解では、アメリカ、中国、ロシアの三国が、主要な大国であるという点で一致しています。これらの国々はそれぞれ異なる形で強大ですが、大国としての地位を主張するのに必要な、最低限の条件を満たしているとされています。

このため冷戦時代の二極世界、ネオコンが目指した「一極世界」、そしてリベラル・グローバリストによる「無極世界」に代わり、トランプ主義は三極または四極の世界を想定しています。この新たな秩序では力の均衡が、世界の構造を決定することになります。そのため現在の国際機関は、ほぼすべて再編が求められます。それらは現実の国際情勢を反映するものとして再構築されるべきであり、もはや実体を持たない過去の遺物のような存在ではいられません。

このような構想は多極化と、似ているように見えるかもしれません。最近になって米国務長官マルコ・ルビオも、「世界はすでに多極化している」と認めました。この現実には中国、ロシア、インドも同意するでしょう。彼らはすでに独自の極としての特性を備えており、多極化が進行していると見なしています。しかしトランプ氏はほぼすべての主要文明を包括し、多極化を直接的かつ制度的に表現するBRICSのような枠組みに対して批判的です。

トランプ氏にとって最も重要な競争相手であり、場合によっては対立者ともなり得るのは中国です。そのため彼はBRICSを、中国が財政、経済、技術面で最も強力な存在として主導する組織と見なしている可能性が高いでしょう。しかし、それだけではありません。ロシア、中国、インド、その他の国々が捉える「多極化」にはすでに確立された大国だけでなく、まだ完全には国家文明として統合されていない、共通の文明的・文化的アイデンティティを持つ国家群も含まれています。

具体的にはイスラム世界、アフリカ、ラテンアメリカといった地域が該当します。これにより確立された三極に対して、新たに三つの潜在的な極が加わる形になります。こうしてBRICSは「六極構造(ヘクサーキー)」を形成し、西洋文明を加えることで「七極構造(ヘプターキー)」が完成します。

このような構想は単なる勢力均衡を超えて文明ごとのブロックが形を成し、相互に競争しながら新たな国際秩序を築くことを示唆しています。トランプ氏が描く未来の国際関係は、従来のリベラルな国際秩序とは一線を画し、実際に独立した力を持つ国家だけが影響力を行使できる世界です。このように彼の考えはグローバリズムの完全な否定であると同時に、大国の自立と地域統合の必要性を強調するものなのです。

トランプ氏は冷徹なリアリズムとアメリカ的な実用主義に基づき、仮想的または潜在的なもの、つまり可能性はあってもまだ現実にはなっていないものすべてに対して懐疑的な立場を取ります。彼の考えではまず大国としての地位を確立し、その後で評価されるべきなのです。それまではアメリカの影響力の外にある、あるいはアメリカと対立するような結びつきはすべて、既存の大国が他国を犠牲にして自らの影響力を強めようとする策略とみなされました。

トランプ氏はこの考えを裏付ける具体例として、中国の「一帯一路」構想や習近平氏が掲げる「人類運命共同体」という理念を挙げています。彼にとってこれらはアメリカ主導のグローバリズムではなく、中国中心の新たなグローバリズムの一形態に見えるのです。したがってトランプ氏の戦略は、ロシアやインドといった他の大国を自陣営に引き入れるか、少なくとも中立化しその他の地域については放任することでそれぞれの国が、自ら最も魅力的で強力な極へと引き寄せられるようにすることです。

この構図の中で欧州連合(EU)の位置と役割を、どのように見るべきでしょうか。米国の政権交代後ブリュッセルは、難しい立場に立たされています。第二次世界大戦後、ヨーロッパはアメリカ主導の西側世界の一部として、ある種の属国、あるいは軍事的・政治的な植民地のような役割を担ってきました。そしてグローバリストの「ディープ・ステート」が、アメリカで権力を維持している間ヨーロッパは、忠実にそのイデオロギーに従っていました。その結果EUではリベラルな支配層が形成され、EU自体が国民国家の主権を解体し、リベラルな超国家的組織を作り上げる実験の場となってきたのです。しかしアメリカ本国でイデオロギーの方向性が変わったにもかかわらず、EUの政治体制は旧来のままです。この矛盾は深刻な問題を引き起こし、EUの存続そのものが危機にさらされるか、あるいは抜本的な改革を迫られることになるでしょう。

すでにハンガリー、スロバキア、セルビア(EU非加盟国)、クロアチア、さらにはイタリアやポーランドの一部など、かねてより国家主権の維持を重視してきた国々やその指導者たちはトランプ氏に同調し、彼のスローガンである「MEGA(Make Europe Great Again)=ヨーロッパを再び偉大にしよう」という考えを受け入れる準備ができています。しかし他の多くの国々はまだ対応に迷い、従来のグローバリズムの路線を維持しようとしています。ただしアメリカというグローバリゼーションの推進力を失った状態で、その路線を続けることは難しいでしょう。

ヨーロッパが再び偉大な勢力として復活するには、二つの道が考えられます。一つはEUを解体し、かつての多様な欧州諸国の体制に戻ること。もう一つは真の主権、伝統的価値観、自国の利益の保護という新たな原則のもとに統合を進めることです。後者の道を選び、リベラリズムとグローバリズムを捨て去ることができれば、ヨーロッパもまた大国として復活し他の主要国家と肩を並べることができると言えます。そうなれば世界秩序における「文明国家」の枠組みにヨーロッパが加わり、八極体制が成立する可能性もあります。

現在「大国秩序」はまだ計画段階にありますが、すでに実現へ向けた動きが始まっています。この状況はまるで春の訪れによって、氷が割れ始める河のようです。古い世界の氷がひび割れ、氷塊が押し合い、隆起し、今にも崩れ落ちようとしています。

私たちはまさにこの変革の端境期に生きています。

まだ完全に流れ出してはいませんが、もはやその流れは止める事は出来ないのです。

翻訳:林田 一博